短編小説集
今、織姫の右手にはたこ焼き。
左手には戦利品のヨーヨーとリンゴ飴。

とてもじゃないがたこ焼きを食べられる状態にはない。
ひとりでものを食べられるとしたらリンゴ飴のみ。

「たーこーやーきーっっ!!」

催促されてたこ焼きを口に放り込む。

「美味ひー!!」

その嬉しそうな顔がかわいいと思う。
思うのに――。

「口にものが入ってる時に喋らない」

注意しながら頭を小突く。

「うぅ……」

織姫は恨めしそうな顔をして黙った。
口をもぐもぐさせ、食べ終えると、

「美味しい!! せーちゃんも食べなよっ!」

俺は一瞬躊躇する。

今、織姫の口もとに運んだ串で自分も食べるのかと思うと、ちょっと……。

間接キスなんて何度もしてるけど、でも――。
好き、と認識してからとそうでないのとは大きく異なるわけで……。

俺が織姫を好きだと自覚したのは高校に入学してからのこと。
会う時間が如実に減って、明らかに距離が空いてからだった。
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