短編小説集
「食べないの?」

訊かれて、勢いに任せ、口に放り込んだ。

「美味しい? 美味しいでしょ?」

俺は少し顔を逸らして頷いた。

(今が夜で助かった)

あたりにある明かりはどれも白熱灯のオレンジ色っぽいものが多く、ちょうちんにおいては赤が多い。

(こんな状況なら、赤面してるのはばれないだろう……)

どさくさに紛れて質問する。

「織姫は?」
「え?」
「彼氏、できた?」
「ま、まさかっ!! できたらせーちゃんやせーちゃんママ、せーちゃんパパに言わないわけないじゃんっ」
「……それはどーも」

(それ……俺は範疇外って言ってんのと変わらないじゃん)

「ね、せーちゃんは? せーちゃんは彼女いないって言ったけど、好きな人は?」

(答えられるか、アホっ)

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