短編小説集
「……織姫がこっち向いたらいいこと教えてやるよ」
「……いつも“お前”っていうのに、急に名前で呼び出すし。せーちゃん反則っ!」

(バカヤロー。最初に反則したのはお前のほうだ)

「こっち向いたら俺の好きな人教えてやる」
「えっ?」

ふいに俺を見上げた織姫の唇を奪う。

「せ、せーちゃんっ!?」
「俺が好きなのは織姫」

俺が言う前から顔は真っ赤だった。
そして若干色っぽくも見えるその唇が紡いだ言葉は――。

「……たこ焼き味」

(ちょっと待て……)

「それ言うか?」
「だってっっっ。どうせだったらリンゴ飴食べた後のが良かったっ」
「そーいう問題かっ!?」
「だって、初チューの味がたこ焼きとリンゴ飴じゃ雲泥の差だよっ!?」
「論議してる内容はかなり低次元だけどな……」

織姫は慌ててリンゴ飴をかじる。
音を立ててガリッ、と。

そして俺を見るんだ……。
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