短編小説集
あまりにも幸せすぎて夢なんじゃないかと思ってしまう。

頬をくすぐる風や髪が、現実だよ、って教えてくれた気がしたけど、まだ、私は夢から覚めない。

「はーい! 目線、こっちにお願いしまーす!」

カメラマンさんのよく通る声。

ぼんやりとそちらに目を向けると、

「……大丈夫ですか?」

レンズを覗くのをやめたカメラマンさんに訊かれてしまう。

「だいじょぶ……です」

たどたどしく答えると、カメラマンさんの後ろから大好きな彼が現れた。

「カンナ、笑顔!」

(そうは言われても……)

「昨日、眠れなかった?」

私はブンブンと顔を横に振った。

「眠れた。ちゃんと寝た」
「うん、目の下にクマはないみたい」

(バカ……)

クマがあってもプロのメイクアップアーティストさんにかかったら、コンシーラーって魔法の道具であっという間に消せちゃうんだからねっ?
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