短編小説集
茶化して言うハルにむくれた顔を見せると、かわいくないよ、と笑って文句を言われた。

「いくら俺でもこんな手のこんだドッキリなんてしないよ」

白いタキシードに身を包んだハルが苦笑する。

日差しが当たると、タキシードの白が強すぎてちょっと眩しい。

「カメラマンさん、少しあっち向いててもらえます?」
「かしこまりました」

カメラマンさんが後ろを向くと、ハルは私のところまでやってきた。

今度は髪ではなく、ハルの大きな手が頬に触れる。

「うん、きれい」
「……だって、プロの人にメイクしてもらったんだもん」
「そうだね。……でも、もの足りない、かな?」
「え?」

(何が?)

足りないものなんてあるわけない。
メイクしてもらってる時、私はずっと鏡を見てたのだから。
メイクの仕方ひとつでこんなに変わるんだ、と。

マスカラにアイシャドウ、アイラインにチーク。仕上げに口紅とグロス。
きっちりとメイクするのは苦手だから、ナチュラルにしてください、ってお願いした。
その工程をすべて見ていたのだから足りないものなんて……。
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