夏の香り
そういうわけじゃない、とか
お前が一番だ とか
そういう台詞はもう聞きあきた。
長い髪が好きだからと一年かけて伸ばした黒髪。
薄化粧が好きだからと、念入りにケアした肌。
綺麗に磨いて整えた爪。
おしゃれも美容も、趣味も、全部が彼氏に染まってた。
ばかだった、ばかだったなあ。
ついさっきまで待ち受けにしていた二人でのプリクラは、いまやごみ箱送り。
たった一回「消去」を押すだけで、積み上げていたうすっぺらいものは消せる。
きっとこの状況をあの人が見たら、
私の泣き顔も全部含めて…笑い飛ばすんだろう。
そう心の中でため息をついて、ごしごしと目をこすった。
いまは誰にも会いたくないとぼんやり思った
…のに、私はやっぱり、ついてない。
「まーた振られたんか。残念だったなあ」
肩に下げていた通学カバンを軽く引っぱられて振り向く。
いつのまにか隣に立っていた金髪頭は、にやりと笑っていった。
-私をわらうこいつ。いとこの、アツキ。
眉間にぐっとしわを寄せて、カバンを肩にかけなおす。
…うるさいよ、と悪態をついてみたが、絞り出した声は思いのほか小さかった。