耳に残るは君の歌声
「ふーけゆくー、あーきのよー……たーびのそーらぁのー……」
次の日、あたしが使いを頼まれてから家に帰ると、修平さんが独りで我が家の縁側に座って歌っていた。
音程は少しズレていたけれど、声に味があって、あたしはしばらく玄関の脇につっ立って聴き入ってしまった。
「お、京子ちゃん。おかえりぃ」
あたしに気付いた修平さんが、にこりと笑って手を振ってくれている。
その笑顔が、眩しくて。
あたしは思わず、少しだけ視線を逸らせてしまった。
「どうも。あの、何してはるんですか?お兄ちゃんは?」
手を振り返す事は躊躇われたので、会釈をしてからそう尋ねると、修平さんは今度は困ったように笑う。
「さっきまでここで話しとったんやけどなぁ、近所の子供たちに連れてかれて。おばさんも隣組や言うて家おらんし、留守番しててん」
「あ、そうやったんですか……すみません」
兄は近所の子供たちに好かれていて、よく一緒に遊んだりしている。
『遊んでもらっている』ような感じがするのは否めないところだが。
それにしても、修平さんを独り残して出掛けてしまうなんて。
帰ってきたら一寸言っておかなければ。
「京子ちゃん、こっち座り」
兄にどうお説教をしてやろうかと考えていると、思いもよらない言葉が修平さんの口から飛び出して来た。
「え!?で……でも……」
「ええから。ほら、ここ」
修平さんが自分の横をぽんぽんと叩きながら言うものだから、あたしは促されるまま修平さんの隣に腰を下ろした。
しかし、座ったはいいものの、緊張して身体が足先から固まっていく。
兄へのお説教の事など既に頭に無く、代わりに頭の中を漂い始めたのは、まだ帰って来なくても良いのに、なんていう思いだった。