耳に残るは君の歌声


「京子!!居てるか!?」

翌日、あたしが夕飯の手伝いをしていると、兄が勢いよく外から帰って来た。

「何よ、そんな慌てて。どしたん?」

勝手口の外でさつま芋を洗っていたあたしは、尋常ではない兄の慌て様に、手を止めて立ち上がる。

「川野……」

「え?」

よほど走ってきたのか、ぜえぜえ息をきらしていて何を言っているのかよく聞き取れない。

いや。

分からないほうが、よかったのかも知れない。

「川野、休暇でこっちに戻ってきてたらしい……!」

――え?

兄の言葉に、思考回路がゆるゆると速度を弱めていく。

「明日向こう戻って、明後日には出兵やって…」

――何?

「行き先は……たぶん、南のほうちゃうかって……」

兄の口から紡がれる言葉が、理解できなかった。

目の前が、一気に暗くなる。

「おかしいと思ったんや……それで、川野のおばさんに聞いてみたら……」

「……嘘や……」

休暇。

それは出兵前に軍人に与えられる、最後の休日のことだ。
親しい者と、最後の別れをしなさい、という。

行き先は、南。
激戦地といわれている、サイパンとか、そこら辺なのだと思う。

それがつまり、どういうことを示しているのか。

頭の中が真っ白になって、何も考えることができない。

いつものように、嘘だ、と。

冗談だと言ってくれない兄に、怒りにも似た感情が湧きあがる。

「お兄ちゃん、悪い冗談もいい加減にせんとほんまに怒るよ!?」

忙しいんやから、と言ってまたしゃがもうとした時、兄の後ろから声が聞こえた。

「ほんまや」

「……川野……」

兄の後ろには、修平さんが立っていた。


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