耳に残るは君の歌声


「明日、もう行く」

夕日が逆光になって、顔が良く見えない。

「……冗談は、やめてください……」

下を向いて短く言った修平さんに、あたしは必死に笑顔を作ってそう言った。
自分自身に、冗談なんだ、と言い聞かせるように。

「嘘やって言うてください!」

「ほんまの事なんや!!」

「嫌です!!」

あたしの言葉を遮り、怒鳴るように言う修平さんよりも大きな声で、あたしは叫んだ。

目に、涙があふれてくる。

「嫌です……!お国のために戦って、何になるって言うんですか!?どれだけの人が意味の無い死を迎えたことか!もし……もし修平さんに何かあったら、あたしは……!」

今まで言えなかったことが、涙と一緒にすらすらと口をついて出る。
兄は、黙り込んでその場にただ立っているだけだった。

夕日が、あたし達三人を照らす。

「京子ちゃん。俺はな、この国が、好きなんや」

修平さんが、うつむいて泣いているあたしの肩に手を置いて、優しく言った。

「父や、母や、西や京子ちゃんが居る、かけがえの無い人が生きてる、この国が」

肩に置かれた大きくて暖かい手が、僅かに震えている。
修平さんの想いが、その手から伝わってくるような気がした。

「俺たちが向こうへ行くのは、お国の為だけやない。心から守りたい人が、生きてほしいと思う人が、居てるからや」

「修平さん……」

涙の伝う顔を上げると、そこには優しい、でもしっかりとした光を持った修平さんの瞳があった。

「……お願い、聴いてもらえへんかな?」

「……何ですか……?」

「もう一度、歌って欲しいんや。……旅愁」

あたしは一瞬だけ戸惑ってから、涙をこらえて、声にならない声で歌い始めた。



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