SATAN


「それは――…」



と父が言おうとした時、母が驚いた様な表情をしたあと焦ったように立ち上がった。





「あ、あ……」




何を恐れているかは知らないが、母の顔は恐怖で引き攣っていた。


「あ、なた…!」




ようやく言葉を発する母に父の表情が何かを察したように曇った。




「まさか…」




確認をするように母に目を合わせる。




「…えぇ…、奴の気配が近づいています。…早く、羽美をあちらの世界へ送らなければ…!」




また出てきた"奴"という単語に羽美は眉を潜めた。




普段、母と父は、まるで人を嫌うということを知らないかの如く分け隔てなく優しく接する。





そんな二人が誰かのことを"奴"呼ばわりするのは珍しい。





それだけ悪い人なのだろうか…。




何にせよ、"奴"から私を遠ざける為に異世界に行かなきゃならない、ということは分かった。







だが此処で一つ疑問は無くなったが、もう一つ新しい疑問ができてしまった。






「奴って誰のこと?」
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