SATAN
いつの間にか風は止み、そのかわり何かまがまがしい、ものを感じる。
目の前にいる父の肩越しに見える人物がSATANだということは、すぐに分った。
人間離れした美しい顔立ちに後ろで一つに束ねてある綺麗な漆黒の髪は女性に見違う程SATANの顔に映えている。
闇がかった紫色の瞳は怪しく揺れ感情が全く読み取れない。
黒と紫の貴公子のような服装についている黒のマントは、ハタハタと靡いている。
SATANを観察していると、ふと視線があう。
ビクッと跳ねた私をみて、SATANは口に小さな弧をえがいた。
『羽美、私と共に我が世界へ』
私の体がまた、ビクリ、と跳ねた。
SATANのその言葉に父が容赦なく言葉をあげる。
「お前の狙いは何だ?何故、羽美だけを狙い欲する」
「教えてやっても別に構わない。が、その女のしている事は見過ごせん」
その女?
と思った瞬間、母の手元に、バチッ、と電流が流れた。
「……っ、…」
母は痛みに顔を歪め咄嗟に腕を下ろした。
私を異世界へ送るための魔法はSATANにとって何か不都合があるらしい。
どうせ私も同じ世界へ行くことになるのだ。SATANと行こうが、母達によって送られようが変わりはないだろうに。
私の心を読んだかのように母が忌ま忌ましそうに応えた。
「私達が羽美を送ると、奴は羽美の居場所が掴めなくなる。そうなると奴の計画が崩れるのよ。」