SATAN
気がつくと当たり一面は草原だった。
「ここは…」
小さく呟いた言葉も風と草の揺れる音で掻き消される。
ゆっくり記憶をたどり考えると、ここが母と父の言っていた異世界だと理解出来た。
しかし異世界に着いたことが分かっても、どうしていいかが分からない。
羽美は街らしきものは無いかと辺りを見渡すと、何処からか何頭かの馬の走る音が聞こえてきた。
音のする方をじっと見ていると、マントを纏った貴族らしき人の乗った白い馬を先頭に、次々と人が乗っている馬が、こちらに走ってくる。
「……、…っ」
初めてみた光景に言葉が出ないでいると、いつの間にか、その人達は羽美の目の前まで来て止まった。
白い馬に乗った一番、偉いであろう人が羽美の姿を見て驚いた顔をした。
後ろに続いていた人達もザワザワとし始めた。
「何者だ。」
短く、そう先頭の人が言い放つと騒がしかった者達が静まった。
何者、と言われても「異世界から来た者です」なんて言えない。言ったところで信じないだろう。
返答に困っていた羽美を、先頭の男は何かを確かめるように、まじまじと見てくる。