眼鏡
眼鏡
うっとーり、眺めても誰も咎めない部署飲み会の3軒目。
眼鏡とスーツのバランスが抜群の課長を、大好きなマティーニのお供に。
「眼鏡、くいっ、って私を見ながら上げてクダサイっ。」
「課長・・・、ヤバい。」
調子に乗って課長へ色々リクエストしたり、間近でうっとり出来たり、お酒は便利。
銀縁の眼鏡がいやらしくなくて(いや、たまにいやらしい。)、つい、と持ち上げる人差し指とか、不意に眼鏡を取る仕草とか、・・・課長に限らず、眼鏡男子好きなのです。
きゃいきゃい騒ぐ私の向かいの席。
課長は黙って、500円をテーブルにつ、と滑らせれば、
「おにーさん、恥ずかしくて死んでしまうからコレで勘弁して下さい。」
ってワンコインで黙らせる魂胆。
可愛過ぎ!
呑んでたマティーニ、興奮してちょっとフイた。
恋?
いいえ、それとはまた違う。
課長とは、意味を成さないアイコンタクトをよく、交わした。勤務中に絡まる視線も内緒のゲームみたいで、楽しかったし、
イヤじゃ、なかった。
仄暗いオレンジ色が僅かに手元を照らす程度の電気を灯して、課長と二人、探し物をしていたある日の資料室。
「今日は、眼鏡なんですか?」
物音が止んだ室内。
返事をしようと振り向けば、課長が背後に立っていた。
「ちょっと目の調子が悪くて・・・。」
「じゃ、試せるじゃないですか。」
え。
「忘れたなんて、言わせない。」
酔った時に「眼鏡同士でキスしたことありますかぁ?」と呑気に課長へ聞いたことを、覚えている。
灯りを遮断した背中が、闇を作る。
「イヤなら逃げて・・・、俺から。」
熱っぽい表情で釘付けにさせておいて、
鼻の頭を触れ合わせた、軽いキス。
「ほら、出来ました。」
って。
でも、
課長の指が、顔の前。
「俺の好きなキスは、眼鏡があったら出来ないんですよ。」
私の眼鏡をふ、と取ってしまう。
自分のそれも外しながら課長は、舌を軽く見せつけて、その距離をまた詰めた。
ウサギの皮を被った、野獣発見。
片想いをしていた訳じゃなかったけれど、
お酒の席での戯れと、資料室でのイケナイキスが、
2人の関係をぎゅううっと結んで溶けさせた。
こうやって始まった恋。
プライベートの課長は、
自分のコトを「俺」って言うし、
意地悪で、優しくて、エッチで、やっぱり眼鏡の素敵な男性でした。