子供+大人=恋?の方程式(応用編)
「そういえば圭くん。
明日ダメになったって言ってたけど、どうしたの?」
「ああ…。
俺もすっかり忘れてたんだけど、お袋の実家のほうで法事みたいなんだ」
「そうなんだ…」
「なに?
口では嫌そうに言ってたけど、本当のところ明日のデートがなくなってがっかりしてる?」
「それはない」
はっきりと言い切ると、ククッと笑いながら圭くんはあたしの前にカップを置いてくれた。
「急に、こんなところまで連れてきたのは悪いとは思うけど、急きょデートから法事に予定が変わった俺のがっかり感を慰めると思って付き合ってくれよ」
いつも強引な圭くんにそんな風に言われると、『嫌だ』とも言えず、あたしは素直にコクリと頷いた。
「遅いし、一時間ほどしたら家に送るから」
「う、うん…」
温かいココアが入ったマグカップを手で包み込むように持ちながら、あたしはもう一度頷いた。
ここに連れてこられるまでは、あんなに抵抗していたのに、素直にこんな風に言われると、怒りとかそんなものよりもこの空間に今いるそのことに気恥ずかしさのようなものが浮かんでくる。
こんなに夜遅く。
それも、一人暮らしの男の人の部屋…。
たとえ、普通の女子よりも女子力のレベルが低いあたしでもドキドキせずにはいられない。
そして、こんな時に限って圭くんはなぜか一言も話さない。
皮肉でもなんでもいいから話してくれたらいいのに、やけにシーンとした沈黙だけが流れていた。