追憶の緋月桜
「じゃ、私は一時間目この教室だから。」
「うん、ウチ、あっちやー」
空元気に振る舞うなつに苦笑いを返して教室に入る。
あぁ、今日ははやく帰って“準備”をしなければ。
――――――
――――
淡い銀色の月の光に緋が少し交わっていた。
「まだ、か」
ドクン、ドクンと血が流れる。
屋敷の縁側から庭におりて桜がヒラヒラと舞う場所まで歩いていく。
桜は哀しさ故に美しい。
例え、桜をみるたび締め付けられる心が悲鳴をあげるように軋んでいたとしても。
月明かりに照らされる桜は幻想的でまるでここだけ別世界にいるみたい。
愛していた、と思っていた。
愛しくも憎い貴方。
ずっと、心に在り続ける貴方の名を
「―――、」
声にならない音で呼ぶ。
切なくて甘い想いと憎くて苦い思いが重なってグチャグチャになって私のナカで回っている。
「………、」
頬を伝う雫を拭き取るわけでもなく、私はただ、桜を見ていた。
―――気配、がした。
私は静かに言い放つ。
「――ここは貴方のような者が来る場所ではないよ。“一族”に見つかる前に。去りなさい。」
気配、は戸惑い、私に姿を見せた。と言っても私に見えているのは姿ではなく、息を殺した気配でもなく、そのひとの存在なのだ。