追憶の緋月桜
―――綺麗、だと思った。
ただ、そう思った。
彼は私を見て、
「なぁ、この地の巫女よ。お前は何を守っているのだ。巫女ならば少なからず何かを力の拠としている。なのに、何も感じない。」
彼は射抜くような瞳で私を見ていた。静かに銀を光らせた。
「………!!」
――気配、がした。
それに彼は気づいていない。
微かに廻らされている結界にかかった鬼、がいる。
けど、遠い。
敷地内といっても、ゆうに数10キロはある。それに侵入されたのは“焔燈の森”。
ここから一番遠い。此方に被害がなければあまり関わりたくないのだか。
森を荒らされてるので、致し方ない。
「巫女、」
彼も気づいたのか私を呼び、森の方を見ている。
「私の地よ。貴方は手出ししないで。」
「俺が追っている奴かもしれん。それに、お前に滅せれるとは思えない。」
あぁ、やっぱり。
この人も大したことない。
ふっ、と笑みを漏らし私は走り出す。