追憶の緋月桜


森に行きたいところだけど、そんなに走っている時間はないから。屋敷から遠いところを選ぶ。


「―――巡れ、」


私の“チカラ”を森に向かって張り巡らす。
暴れている鬼と、鬼に向かって走っている彼を。




―――捕らえる。




指を動かし、縛り上げた2人(一人と一匹)を目の前に引きづりだす。


「――!?」


驚いたように私を見る彼。
あの人、はこんなの直ぐに外せたのに。


彼を横目で見ながら、暴れている鬼を見て。


「滅」


バン、と音がして塵となって風に舞う。



――戯れ言なんて聞かない。



耳を傾けるほど優しくはないの。


「………」


彼が驚いて私を見ている。
巫女、と名乗るくらいだからそれくらいの能力はあるでしょ。
守られてばかりの巫女などこの地では生きていけない。


「ねぇ、退鬼師さん。」


ビクリ、と彼は私を見る。ホントに、銀、にはそぐわない。


「銀、を持つ貴方がその程度なの。」


銀、とは力の証。
銀、とは力の源。
銀、とは血の鎖。


退鬼師の一族の当主が持つ色。



< 14 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop