追憶の緋月桜
森に行きたいところだけど、そんなに走っている時間はないから。屋敷から遠いところを選ぶ。
「―――巡れ、」
私の“チカラ”を森に向かって張り巡らす。
暴れている鬼と、鬼に向かって走っている彼を。
―――捕らえる。
指を動かし、縛り上げた2人(一人と一匹)を目の前に引きづりだす。
「――!?」
驚いたように私を見る彼。
あの人、はこんなの直ぐに外せたのに。
彼を横目で見ながら、暴れている鬼を見て。
「滅」
バン、と音がして塵となって風に舞う。
――戯れ言なんて聞かない。
耳を傾けるほど優しくはないの。
「………」
彼が驚いて私を見ている。
巫女、と名乗るくらいだからそれくらいの能力はあるでしょ。
守られてばかりの巫女などこの地では生きていけない。
「ねぇ、退鬼師さん。」
ビクリ、と彼は私を見る。ホントに、銀、にはそぐわない。
「銀、を持つ貴方がその程度なの。」
銀、とは力の証。
銀、とは力の源。
銀、とは血の鎖。
退鬼師の一族の当主が持つ色。