追憶の緋月桜


「私なんかの、術を解けないなんて。」


銀、を携えたあの人は私なんか敵わないくらい強かった。


「それとも、貴方は次代の当主ではないの。」

「…………っ、」


少し、迷ってから彼は口を開き、そして。


「―――兄さん。この人は全部わかってる。」


やっぱり、と思って気配を探る。近すぎてわかりにくかったが、剣を向けられたことはわかった。


そして、その切っ先がいつでも心臓を貫けるということを。


「――弟、が世話になった。」


柔らかい声色で話ながらも他を圧倒する。
じわり、掌に汗が滲むのがわかる。


「失礼、ですよ。」

「すまないな。お前が信用するにたりる者かわからんのだ。」

「こちらとしても、同じです。」

カチャリ、剣のおさめる音がして警戒しながら振り替える。


「………巫女よ、」


何を想ったのか、酷くわけのわからない想いが現れる。
真っ黒や髪で弟よりも強い光を瞳で放つ。


「はい、」

「お前は何故この地にいるのだ。」

「この地に生まれたからですよ。それ以外に何かありますか、」


多分、違う意味を言っているのだろう。でも、私は敢えて言わない。わからないフリ。



< 15 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop