追憶の緋月桜
緋月なる闇に
朝、目が覚めて。
あぁ、今夜か、と自覚する。
私の部屋に向かって歩いてくる足音と気配で、思わず溜め息をつく。
さっと寝間着を整えて正座する。まもなく、襖が開いて威圧的な態度の百華叔母様が入ってきた。
「緋桜、今宵です。準備なさい。」
「わかりました。」
恭しく頭を垂れると叔母様は、私を見て、
「継承の刻が成功したならば貴方がこの神月の当主です。いいですね、」
「わかって、おります。」
「なら、いいです。」
叔母様は部屋から出ていった。
私はゆっくりと立ち上がると寝間着にしている浴衣を脱ぐ。
そして、薄衣に着替えてお手伝いさんを連れあの場所へ行く。
森のすぐ近くには小さな滝があって、そこで体を浄める。
まだ春には冷たい水が体温を奪う。
覚悟、していた。
ただ、無自覚に。わかっていた。自分にとって、自分という存在は変わっていくものだと。
「―――、」
もう、会うことのない貴方の名を呟けば滝の音に消え行く。
貴方の顔と銀、の顔がちらついて頭から離れてくれない。