追憶の緋月桜


「………おい、」


立ち止まる私にもう一方の手で触れようとする。
それすらも恐くて、私は掴まれていた手を振りほどいて逃げ出す。

「―――緋桜っ!」


――ヤメテ、呼ばないで。


名を呼ばないで。
“私”を呼ばないで。



縛られてしまうの。貴方の声に。




「……っ!……っはぁ、はっ…」

くるしい、いたい、せつない、





―――あいたい、






ぐるぐると“私”を廻る気持ちに吐き気がして、涙がこぼれる。



彼は、あのひと、なの。


あのひと、だったの。



銀、が変わらない。



あの、曲がらない真っ直ぐな強い銀、がすきだったの。



―――すき、だったの。



< 21 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop