追憶の緋月桜
「………おい、」
立ち止まる私にもう一方の手で触れようとする。
それすらも恐くて、私は掴まれていた手を振りほどいて逃げ出す。
「―――緋桜っ!」
――ヤメテ、呼ばないで。
名を呼ばないで。
“私”を呼ばないで。
縛られてしまうの。貴方の声に。
「……っ!……っはぁ、はっ…」
くるしい、いたい、せつない、
―――あいたい、
ぐるぐると“私”を廻る気持ちに吐き気がして、涙がこぼれる。
彼は、あのひと、なの。
あのひと、だったの。
銀、が変わらない。
あの、曲がらない真っ直ぐな強い銀、がすきだったの。
―――すき、だったの。