追憶の緋月桜


観念した私はゆっくりと石段を降りる。
近づいて行くにつれて高鳴る鼓動。


「宵、どうしたの」


どうしてきたのかなんてわかってる。
けど、わからないフリをするの。


「礼を。」


私を見て、微かに微笑うなんて駄目だよ。
高鳴る鼓動には蓋をして。


「別に良かったのに。」

「あのあと、2日で治ったからな。」

「そう、」

「俺の血は治癒にはあまり向いていないんだ。」


哀しそうに瞳が揺れる。
思わず伸ばしてしまった手を引っ込める。


「そう、」

「緋桜、お前………」


何を言われるのか、と不安になる。
あぁ、バレるのかと思う。鬼の気配を漂わせていたから仕方がないのだけれど。


「あの時何であんな事をしたんだ。」


一瞬、ドキリとしたけどまだ核心には触れてないと安堵する。
そして、あの時のコトを思い出す。


緋に塗れる宵をみて。 
まだ覚醒してないと思った、“あのひと“のような血色ではないと。

当主になりきれてないのだ。
まだーーー。



そのとき、記憶がどうなるのかわからない。
だから、今は何も知らないままで。


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