追憶の緋月桜
愛していた、
ただ、愛しい
私と“私”の感情がごちゃ混ぜになってあふれる。宵はまだ記憶が無いのに。
なのに、こんな想いを持っているはずがない。
理屈ではわかっている。
頭ではわかっている。
けれど、本能が無意識に体を突き動かす。
ただ自らの欲求のために触れたいと思う。
「宵、宵、」
譫言のように繰り返す彼の名前。
だって、あらがえないの。
いや、あらがおうとしないの。
欲望が顔を出して私を笑う。
「緋桜、……?」
困惑した彼なんて、もう知らない。
ただ、
彼は、“彼”なのに。
なんで、私を覚えていないのだろうか。
こんなにも、
くるしくて、せつなくて。
貴方しかいらないのに。
こんなにも、こんなにも、
「緋、桜」
「ねぇ、思い出して………?」
切なる願いはただそれだけ。
一時でも、たとえ。
死に別れるとしても、
“前”と同じ路を辿るとしても。
貴方から愛していると、囁いて。