追憶の緋月桜
だから、桜の季節が来るのが嫌なの。
そっと、目を閉じて御神木の鼓動を感じる。
桜はまるで私を包むように
柔らかく舞う。
「―――サヨナラ、」
微笑んで御神木から去る。
もうすぐ、私は私ではなくなる。
生まれたときからわかっていたこと。
変えられない運命を今まで嘆いたことはない。
変えたくとも、変えられないのだから。
運命、なんてそう簡単には変わらない。変わってくれない。
そっと、自らに言い聞かせて。
桃色に染まる境内を後にした。