追憶の緋月桜
「とにかく、一族の為にも継承の刻を失敗するわけにはいかないのです。わかりましたか、緋桜。」
「はい、………私の命は全て一族に捧げます。」
自らの意思、などはない。
“一族”という楔が私を縛り付け、動けなくする。
「よろしい、では継承の刻に向けて身を浄め、魂を気高く持ちなさい。」
「………御意。」
襖が開く音がして、傲慢な気配が消え行く。
ふぅ、と息をはき体にまとわりつくものを滅する。
私は、もう鳥籠からは出られない。羽を引きちぎられた抗う術を持たず死に行く鳥、なのだ。
腰まである真っ黒な髪が風に吹かれて靡く。
部屋の中にいるのに風が吹くのは“輪廻”の仕業。
「――“輪廻”」
名を呼べばクスクスと笑いながら私の目の前に姿を見せた。
「風を吹かせないで。」
「いいじゃない。緋桜も気が滅入ってるでしょう、」
――あんなババアの戯れ言なんか聞いて。
聞いている此方がうっとりするような美しい鈴のような声色で笑いながら毒を吐く“輪廻”。
「白華叔母様も継承の刻が近いから気が立っているだけよ。」
「どーだか、ねぇ。緋桜?あんなババア追い出して新しい“一族”を創る気はなぁい?貴方なら私は手を貸すわよ?」