第三ボタンの価値
「伝統であったらしいんだよね」
「何が」
「あれ、知らないのか」
「だから、何が」
恭弥はどこか面白げに笑う。
こっちの気も知らないで。
ローファーに足を入れ終わったとき、彼は言った。
「好きな女子からスカーフを貰うっていうこと。そしてもし、自分のボタンを受け取って貰えたら」
両思いになれるって。
時間が止まったようだった。
こういうとき、そう言うんだろう。
玄関は賑やかだったし、上着を羽織っているからといって肌寒い。
でも、何故かこう、暑くて、しかも泣きたくなる。
何故泣きたくなるかだなんて、私は知らない。
私の手はするりとスカーフを取る。そして、突き出すように渡す。
我ながらこう、もっとかわいらしく渡せないものか、と後悔したが、既にスカーフは恭弥の手に渡った。
それを見た彼は、ポケットに手を突っ込む。
そして私の手をとって、握らせたのは、ボタン。
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