第三ボタンの価値
どうしよう。
「第三ボタンだけれど。第二は知らないで適当にあげたから」
「どういう」
「一応、死守しておいたんだよ」
思考停止した。
フリーズ、といってもいい。
フリーズとはいっても冷たくなんかなくて、嫌なものなんかじゃなくて、むしろ嬉しくて死にそうになっている。
言葉は出てこないから、ボタンをぎゅっと握った。
「俺は、紫乃が好きだから」
第二ボタンの価値は大きい。
でも、それって事実じゃないのだと思う。
古い伝統でスカーフとボタンを交換し、そして誓い合った恋人のように。
意味なんて、当人が知っていればいいのだ。
「第三ボタンで良かった」
「第二ボタンじゃなくて?」
聞き返した言葉に私は頷く。
途中まで一緒に帰ろうか、と言ったのは恭弥だった。三年通ってきたこの通学路が、やけにまぶしく見える。
少しだけ残念なのはこうやって、彼とこの道をもう歩くことがないこと。
「だってね、恭弥」
「なに」
寒いな、と思ったら雪がちらついていた。
「恭弥から貰ったボタンっていうだけで、価値があるんだよなって思ったから」
そう笑ったら、恭弥は珍しく頬を赤く染めた。
指摘すると
「寒いからね」
と適当にごまかす。
その染まった顔は、そっぽを向いていた。
私はひっそり、無防備な手に自らの手を絡めた。
終