催涙雨
─────‥心地よい葵の心音を
そっと聞きながら
二人並んでまどろむ。
幸せな時間だ。
すっごく、幸せだ。
だけど───‥
幸せを実感してしまえば
失う辛さを思い出す。
ずっと、ずっと‥
葵のそばにいたいのに。
『───‥葵。』
「ん‥?」
夢見心地なのか
葵の返事は消え入りそうに
小さいものだった。
『葵───‥』
大丈夫。冷静に。
そう無理やり自分に
言い聞かせたのが悪かったのか‥
『いつ、戻っちゃうの…?』
震わせまいと力んだ声は
明らかに震えてしまっていた。