催涙雨





─────‥心地よい葵の心音を
そっと聞きながら
二人並んでまどろむ。



幸せな時間だ。
すっごく、幸せだ。


だけど───‥
幸せを実感してしまえば
失う辛さを思い出す。



ずっと、ずっと‥
葵のそばにいたいのに。




『───‥葵。』



「ん‥?」



夢見心地なのか
葵の返事は消え入りそうに
小さいものだった。



『葵───‥』



大丈夫。冷静に。


そう無理やり自分に
言い聞かせたのが悪かったのか‥



『いつ、戻っちゃうの…?』



震わせまいと力んだ声は
明らかに震えてしまっていた。



< 91 / 101 >

この作品をシェア

pagetop