催涙雨
そんなあたしに気づいてか
葵があたしの方を向いた
向き合う形になってしまい
あたしの心拍数は増すばかり。
「海───‥」
やさしい。
葵の声は魔法のみたいだ。
ふわっと呼ばれただけで
シンデレラになったような
そんな気分になる。
でもシンデレラにかかった魔法は
0時を過ぎれば
───‥消えてしまう。
ガラスの靴を
落としてしまうように
あたしはじわっと浮かんだ涙
溢れないように。
あたしは、シンデレラじゃない。
涙を落としたところで
あたしの王子様は
葵以外に誰がいるの?
王子様はもう、
あたしを見てくれている。
あとはこれを
手放してしまわぬよう‥
「俺はずっと海のそばにいるよ」
『‥え……?』
「ずっと、海といっしょだ。」