独り占めさせて
そうとわかった上で見れば、たしかにそれは、見慣れた後輩の顔で。
「ううん、大丈夫。
それより、今日はメガネなんだね?」
「えぇ。今朝起きたら、目に違和感があって、コンタクト入れられなくて」
「そう……」
レジュメが行き渡り、今度こそ本当に発表を始める。
「よって、本作における川や水は、異界との境界を示しており……」
期待通り、ふたりは、付け入る隙なく、論を展開させているようだ。
けれど、せっかくの発表も、右から左へ抜けていく。
今の私には、メガネの奥から、真剣な眼差しでレジュメを見ている本田君の横顔しか、目に入らない。