鎖骨
鎖骨
それは毎晩20時に現れた。
斜め前のデスクに座る同僚が、困った生き物に変身してしまうのだ。

「終わんねえよなぁ・・・。」

って文句言いながら、ネクタイの結び目に指を差し込む。切なげな表情を浮かべて、それをしゅるりと取り去れば、彼の指はボタンに差しかかる。

ごくり。

喉が鳴ってしまった事実に驚けば、慌ててコーヒーをガブ呑みした。

視線は、そのままで。

ひとつひとつボタンを外すゴツい指。
その男らしい指が、彼のYシャツをゆっくり暴けばそこから姿を現すのは・・・、私を惑わせて惑わせて、仕事に集中もさせてくれない、

彼の鎖骨。

背も高くて、それに見合うがっちりした体格。
引き締まった上半身に、すーーーっと伸びる鎖骨
ほんの少しの浅黒さが、心臓を無駄にバクバクさせた。

(し、仕事になんない・・・。)

これ以上、同僚に欲情していたらマジで身が持たないから、慌ててPCをパタリと閉じる。タンブラーと動揺をバッグに突っ込んで、急いで立ち上がった。

「お、おつかれさまっ、」

「あ、待てよ。俺も行くわ。」

・・・。

今日は妙に心拍数が上がってる。
Yシャツの中に風を送ろうと胸元をむき出しにしたのを目撃してしまったからか。



19階のオフィスフロアからエレベーターに乗れば、箱の中は2人だけだったのに(目のやり場に困った。)10階のレストランフロアに停止した途端、人であふれ返った。

角に追いやられて、向かい合わせ。
「おわっ、」って小さく悲鳴を上げて前のめりになった同僚は私が背にした壁に両手をついた。
目の前には、甘い毒・・・、鎖骨が。

葛藤。
戦った。
もの凄く。

触れたい、触れたい。
キスしたい。

理性がぷちり、と千切れた音がした。
うん、千切ったのは私。

同僚が僅か私に傾いたその隙に、
顎を上げて、唇を、寄せた。

頭のてっぺんから、つま先まで、じーんと突き抜けた、甘い衝撃。
口付けて、溜息。

手首を掴まれて、
引き戻される。

「次は、俺の番だ。」

何故かしてやったり風に笑う男。

自分が犯した過ちと、これから身に降りかかる予想不能な出来事に容赦なく眩暈。

そのままエレベーターは地下3階の駐車場へ。
人気のない非常階段に連れていかれて、彼に好き勝手・・・、された。


代償は大きかったけど、
鎖骨、いや、彼は私の宝物になった。
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