お望み通り、奪ってあげようか
「えー? だってそれは貴女が僕を誘うから。仕方ないよ」
「私がいつアンタを誘ったの」
「常に。そんなヤラシイ声と身体して、よく言うよ」
「ヤラシイって…それは私じゃなくてアンタの思考がヤラシイのよ」
はあ、と溜息混じりに告げれば、目を逸らしたくなるほどに、真っ直ぐな瞳が私を捉えた。
「ねえ、アンタじゃなくてちゃんと名前、呼んでよ。キスしたい」
「…どうしてそうなるの」
「貴女がすきだから。それ以上も以下もないでしょ。
だから、キスさせて」
「あのねえ、」
「うるさい。言い訳なんか聞きたくない。もう無理、限界。我慢できない。貴女の全部
──お望み通り、奪ってあげようか」
思わず口づけたくなる桜色の唇から、チラリと覗く赤。
真っ白な犬歯に挟まれて、徐々に近づくそこだけが、まるで別のもののように見えた。