call my name
1章
月の作る道
高校を卒業して、この街にやってきた。
地方大学がある県庁所在地。センター試験の結果と自分の実力を考慮して、志望した大学だった。
国語を少し失敗したため、第一志望には届かなかった。
受験の時から感じた、それほど栄えているという印象は受けないこの街。
大学の側にある学生マンションを借り、数日の間に周囲を散策した。
生活に必要になってくる物は、近くの大手スーパーで手に入る。
多少の不便さはあるが、住む分には何の問題もなかった。
あたしが生まれ育った街から、この大学に進学したのはあたし一人だけだった。
ほとんどが地元の大学や、近隣の大学へと進学した。
心細さもあったが、それ以上に大学生活への楽しみが大きかった。
その日、引っ越しの作業も終わり、スーパーで必要な食材を買って、自分の部屋に戻る途中、隣の部屋の住人が部屋から出てきた。
女の子だった。
胸ほどまで伸びた少し明るめの髪の毛を緩く巻いている。
パッチリとした目元が可愛らしさを強調している。
……そういえば、引っ越しの挨拶してなかったっけ。
もともと、今年できたばかりのマンションであったため、どの部屋が入居しているのかどうかが、よくわからなかった。
少し迷っていると、相手の方から、「こんにちはー」と挨拶された。
イントネーションが関西の方だと思われる。
「こんにちは」
「初めてやんな、会うの。1年?」
「そうですよ」
「よかったー。うちも1年なんよ。仲良くしてな。中川美咲です」
ハキハキと話す人だと第一印象で思った。
関西弁が新鮮だったから、別の地に来たんだという実感が湧いた。
「白石紗雪です。よろしくお願いします」
「敬語やなくて、タメ語で話そ。何学部なん?」
「医学部だよ。医学科の方。美咲…ちゃんは?」
「うちも医学部やで。看護の方やけど」
「そうなんだ」
「隣同士、これから仲良くしよな」
同じ学部の人が隣でよかった。
それに、ここまで話しやすいと、気兼ねなく友達になれる気がする。
加えて、同性ということもあって、すぐに打ち解けられると思う。