cafe au lait

 おかげさまで、という社交辞令に不機嫌な態度。


 私にもその不機嫌さが伝染した。



「遥斗の変態エロ男!」



 ヘッドホンした耳に、悪態をつく。



 遥斗は、タオルを巻いたトンカチで椅子を軽くトントン叩きはじめた。





─────遥斗が好きだった。


 中学生の時、バージンを奪われてからずっと好きだ。

 まさか、あれが翌日の予行演習だったなんて私は全然気がつかなかったから、遥斗は私のことを好きだと思ってた。


 家具に対して、誠実に真剣に向き合う遥斗が好きだ。


『俺、結婚するから。え? 十和子と俺の関係? セフレだろ。お前、何勘違いしてたんだ』と言われて、ようやく私は、私たちの関係を理解した。


 遥斗につれない態度をして、自分で自分に対する予防線をはってみたり、私は私で遥斗の気を引こうと頑張ってみたりもした。


 でも、遥斗はそんな私を余所に本当に他の女と結婚してしまったんだ。



 奥さんのいる人を、今でも好きでいることなんて論理的にあり得ない! と頭では否定しているはずなのに




 臆病な私はこの工場を離れることも出来ずに、ただ毎日を遥斗の隣で過ごしている。



< 30 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop