cafe au lait


 遥斗には素敵な奥さんがいて、もうすぐ子どもが産まれる。


 動揺なんてする必要はない。



 動揺なんて……




「十和子」



 その低い声が、私を呼ぶと心臓がギュンと音をたてて締め付けられてしまう。

 遥斗は「よいしょ」と掛け声をかけて椅子を作業台から下ろした。


「わかるだろ? 十和子は俺の特別。俺たちの間にあるのは確かな絆だけ。それで十分だ」


「うん……」


「十和子、座ってみて」



 通帳からゆっくりと顔を上げると、遥斗が椅子を指差す。




「この椅子に、座ってみてって言ったの」



 遥斗はもう一度椅子を指差す。


「わかった」



< 32 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop