アーティクル
「どうしたんだい? リンコ」

 吹き出す寸前で止めた水は、倫子の鼻に逆流した。
 両目の下瞼の隙間から、予想外の空気が吹き上がり、倫子は思わず顔を伏せた。

 ゴホッ、ゴホッ。

 むせんだ倫子の背中を、身を乗り出したジェームズが擦った。
 涙目になった倫子が顔をあげるのに、それから三分を要した。

「何で、解ったのよ」
 倫子は、なかばヤケクソ気味に、ジェームスに聞いた。

「何がだい?」

 この…、とぼけた顔をした男前の、留学生め。

 倫子は、変人の術中に嵌るまいと、思った。
< 15 / 62 >

この作品をシェア

pagetop