アーティクル
 夕陽は、容赦なく二人を裂き、沈黙のうちに沈んでいった。
 賢司には為すすべが無かった。
 二人の為に、時間は止まってはくれなかった。

「キュウリはね、毎日、冷蔵庫の中で、冷たくなって、私を待っていてくれるの」

「…」

「キュウリはね、律子の為だけに冷蔵庫にあって、私が扉を開けないと、外の世界すら、見ることも出来ないの」

「ねぇ、リッちゃん」

 夕陽は体の半分を残して、さながら、悲鳴を上げているようであった。

「ねぇ、リッちゃん」

「…」

「リッちゃんは、もうおうちに帰らないと、お母さんに叱られる時間だよ」

「うーん、そうね。教えてくれて、ありがとう」
 律子の顔から明からさまに笑顔が消えた。

 赤焼けの空を残して、二人の夕陽は、目の前から完全に沈んだ。
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