アーティクル
 今は一人、土手の上から、町の景色を眺めている。

 中学生になった賢司は、この真っ赤な夕陽に染まった町並みが好きだった。
 あの夕陽の赤を眺めていると、律子がすぐ側にいるようだった。

 しかし、今はもう、この土手に律子の姿はない。

「リッちゃんは、あの夕陽の中にいるのかい?」
 呟くように、賢司は夕陽に話しかけた。

「もしそうなら、もう一度、僕の手が届く世界に戻ってきて欲しい。今度はちゃんと、僕の方から声を掛けるから」

「知らない町にやって来て、一人ぼっちの僕に、初めて声を掛けてくれた、あの時の君のように」
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