アーティクル
 経済力がある。
 たったそんな理由で、律子は行政から救われなかった。
 それでも、賢司だけは、いつも律子の傍らにいた。


 そこいら一帯から、温泉がプクプクと湧き出している。
 硫黄臭い湯気で、三人は体ごと何度も包まれたが、楽しいひと時を過ごした。

「地獄めぐりって、うまいこと言うわね」
 倫子はしみじみと言った。

「私、ジゴクっていう響きが嫌い。もし、ここが本当の地獄なら、いつまでもこの地にいたい」
 律子はキッパリと答えた。

「そうかなぁ…」
 倫子はそうは思わなかった。
 何故なら、臭いから。

「ねぇ、あんなところに、俳句が掲示されているよ」
 賢司は、地獄めぐりのど真ん中にある掲示板まで、二人を誘った。
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