アーティクル
 今度は壁に吊された、木製のカメを見付けた。

 お父さんとお母さんが、律子が産まれる前に行った、海外旅行の記念だ。
 この手彫りのカメは、南の島からやって来たそうだ。

「ノロノロのカメさん」

 律子は甲羅に向かって話し掛けた。

「トイレの王様って、本当にいるの?」

 律子は甲羅に顔を近付けた。

「人が話をしているのに、背を向けているなんて、失礼なんじゃない?」

「……」

「何とか言いなさいよ。律子が聞いてるんだから」

 カメは黙って背を向けたままだ。

「もう良いわよ。詰まらない人達ね」

 律子は怒って、首を傾げているダルメシアンの方を向いた。


< 5 / 62 >

この作品をシェア

pagetop