アーティクル
 あの日、この赤いマークを付けたのは、律子自身だった。

 扉の外から漏れ聞こえてくる会話に耳を塞ぎ、キリキリと赤ペンで、日付にぎこちない丸印を付けた。

 赤ペンでお絵書きをしていた律子だったが、その時はトイレの中に逃げ込んで、ただ脅えているしかなかった。


 そんな時、律子は便座に座っている者が、トイレの主である事に気付いた。

 律子は寂しさから、トイレの王様が誰かと、問い掛ける遊びを覚えた。

 そして、律子がトイレの王様であることも、分かっていた。


「私は女の子だから、本当は女王様だけど、王様って呼んだ方が良いでしょう?」

 律子は首を傾げたダルメシアンと、見上げたペンギン、そして壁に吊り下がったカメに、そう言った。

「このおうちには、もう、女王様がいるものね」

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