[短編] 昨日の僕は生きていた。
「う、浮いてる!? っていうか雪彦は……昨日……!」

 香織ちゃんはパクパクと口を閉開している。
 魚みたいだ。

「今朝起きたら、透明人間になってたんだ」

「ばかっ。透明人間なんかじゃないわよっ!」

「……へ?」


 香織ちゃんはテレビのお笑い番組を消すと、立ち上がって僕のもとまでやって来た。

 眉がつり上がっている。
 怒ってるようだ。


「覚えてないの!?」

「何を?」

「昨日の事!」

 僕は首を振った。

 昨日の記憶はないが、いつも通り学校から帰ってきて、いつも通り1日を終えたのだろう。


 香織ちゃんはなぜかため息をついた。

 そして低い声でこう言ったのだ。

「あのね、雪彦。あんたは昨日、死んだのよ!」


 ――え?

< 4 / 20 >

この作品をシェア

pagetop