[短編] 昨日の僕は生きていた。
 死んだ? 僕が?

 混乱して言葉を発しない僕に、香織ちゃんは遠慮なくハッキリ言った。

「昨日の夜の事よ。明日お通夜なの。知らない?」

「し、知らない……」

「幽霊になってもバカなのね。」

 どうやら僕は透明人間なんかじゃない。幽霊になっていたんだ!
 困った顔で香織ちゃんを見る。

「……何で成仏しないのかしら」

「さぁ?」

「さぁ? じゃないわよっ。自分の事でしょ! 全く、幽霊になってもヘタレなんだから」

 香織ちゃんは怒りながらも僕を追い出そうとはしなかった。

 ちょっぴり怖いしSな彼女だけど、本当は優しい。 ちなみに僕はMだ。
 香織ちゃんとは相性ピッタリ! と自負している。

 その夜。

「――なんでまだうちにいるのよ?」

「駄目?」

「駄目に決まってんでしょー! とっとと成仏しろ!」

 僕はまだ香織ちゃんの家にいた。彼女の両親は共働きで帰りは夜中。

「死んだ事すら知らなかったし、まだこの世を離れる気はないよ」

「ここに居ると邪魔だわ」

 香織ちゃんは相変わらず酷い。彼氏が死んだというのに!
 僕は死んだという事実を受け入れていた。というか、まだ実感がないだけかもしれない。

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