HAPPY CLOVER -姉の結婚式-
姉の結婚式
お姉ちゃんの結婚式は案外普通だった。
妹が「案外」というのも変な話だけど、私の姉は少し……いやかなり変わっている。
何かとんでもないことをやらかすのではないか? と内心びくびくしていたのは、私だけではないはずだ。たぶん我が家の身内は皆ドキドキしていたと思う。
その証拠に、父も母も大して飲めもしないお酒を宴会の最初からハイペースであおっていた。酔ったモン勝ちということなら、私はかなり不利な立場だ。
しかも、私は今日、普段は絶対着ないひらひらしたワンピースなどを着ていて居心地が悪い。
でもこれにメガネってホント似合わないと思う。せめてもうちょっとお洒落なフレームだったらな……。
珍しくかわいらしい格好をしているせいか、柄にもなく女の子っぽいことを考えてしまった。
うわっ! 恥ずかしい。
私は慌てて飲み物を飲んだ。
……ん?
……何だかこのジュース、変な味。
「舞ちゃん、それ、ママのワインなんだけど……」
えええええ!!!!!
もう思い切り飲み込んでしまいましたよ、ママ。どうしましょう? 私、未成年なのに……
「まぁ今日はめでたい席だし少しくらい大丈夫」
などと隣から叔父が慰めの言葉を掛けてくれた。
でも、ワインってあんまり美味しくないんだ……
何だか渋い後味が口の中に残って、次第に喉が熱くなってくる。
ありゃりゃ、頬も熱くなってきた。
「舞、顔が赤くなってきたぞ」
タコみたいに真っ赤な父に言われたくないと思ったけど、私は自分の頬を両手で押さえた。
しかもこんなときにトイレに行きたくなってしまった。
ちょうど姉はお色直しで中座しているときだったので、この隙に! と急いでトイレに向かった。
「ねぇ、キミ、新婦の妹さんだよね? いくつ?」
少しふらふらとしながらトイレを出ると、いきなり見知らぬ男性に話し掛けられた。新郎の友人席にいたかもしれないな、と思うが自信はない。
「そうです。16ですけど」
「え? 高校生なの?」
その男性は本気で驚いたようだった。私ってそんなに老けて見えるのだろうか。
「彼氏とかいるの?」
そんなこと私に聞いてどうするんだろう? と思いながらも「いません」と答える。
「俺、こういう者なんでもしよかったら連絡ちょうだい」
そう言って名刺を渡された。
……ん? これ、どういう展開なんだろう?
さっきのワインのせいか、思考能力が鈍っているようだった。
名刺をぼんやりと眺めていると、その男性は私の耳元に顔を寄せた。
「それとも、今、抜け出しちゃう?」
……は? 何言ってるんだ!?
急速に脳味噌が回転し始めた。
「両親が待ってますので」
そう言ってその男性を振り切ろうとすると、意外にもしつこく、腕をつかまれた。
「待ってよ。もうちょっと話したいな」
話なんかない! と思い、少し大きな声で「離して!」と言ってみた。
「舞?」
そこに従兄が現れた。ナイスタイミング!!
そして、この従兄、諒一(りょういち)兄ちゃんは大学生なんだけど、親族の中でもなかなかの美男子なのだ。
新郎の友人らしき男性は慌てて私の腕を離し、そそくさと会場へ戻って行った。
「ありがとう、諒一兄ちゃん」
「ナンパ?」
諒一兄ちゃんは私の赤くなった腕を取って擦ってくれた。
「どうだろ? でも……私だよ? こんなメガネだし」
私は自分で言っておきながら、少し寂しくなった。男性にあんなふうに声を掛けられたのは生まれて初めてかも……。
諒一兄ちゃんは笑顔で私の顔を少しつねった。
「アルコール? 『酔ってます』って顔してる」
げげ! そうなのか。
それでさっきの男性も……
「それにしても舞も大人っぽくなったね。もう高校生か……」
私は諒一兄ちゃんの言葉にますます頬が熱くなるのを感じた。こういうカッコいい人から言われると、いくら身内とはいえ何だか照れる。
「気をつけないと、男は皆、オオカミだからね」
涼しい笑顔で諒一兄ちゃんはそう言った。
「諒一兄ちゃんも?」
私は冗談半分で聞いてみる。
「当然」
ぎょっ!
今まで見たことない種類の笑顔だった。一瞬、惹き込まれそうになる。
「舞はもう少し自覚をもったほうがいいよ。例えばそのワンピース。かわいいけど、ストールか何か羽織らないと目立ちすぎる」
……え?
私は自分の格好をつま先から再確認する。
「何が目立つの?」
特に目立つところなんかないと思うんだけどな。
すると諒一兄ちゃんは少し呆れたように肩をすくめた。
「参ったね。……まぁ、そこが舞のいいところでもあるけど」
そう言って「そろそろ戻ろう」と私の背中を軽く押した。
結婚式の後も諒一兄ちゃんの言葉が気になったが、結局意味がわからなかった。
私がその言葉の本当の意味を知るのは、もう少し後のこと……。
妹が「案外」というのも変な話だけど、私の姉は少し……いやかなり変わっている。
何かとんでもないことをやらかすのではないか? と内心びくびくしていたのは、私だけではないはずだ。たぶん我が家の身内は皆ドキドキしていたと思う。
その証拠に、父も母も大して飲めもしないお酒を宴会の最初からハイペースであおっていた。酔ったモン勝ちということなら、私はかなり不利な立場だ。
しかも、私は今日、普段は絶対着ないひらひらしたワンピースなどを着ていて居心地が悪い。
でもこれにメガネってホント似合わないと思う。せめてもうちょっとお洒落なフレームだったらな……。
珍しくかわいらしい格好をしているせいか、柄にもなく女の子っぽいことを考えてしまった。
うわっ! 恥ずかしい。
私は慌てて飲み物を飲んだ。
……ん?
……何だかこのジュース、変な味。
「舞ちゃん、それ、ママのワインなんだけど……」
えええええ!!!!!
もう思い切り飲み込んでしまいましたよ、ママ。どうしましょう? 私、未成年なのに……
「まぁ今日はめでたい席だし少しくらい大丈夫」
などと隣から叔父が慰めの言葉を掛けてくれた。
でも、ワインってあんまり美味しくないんだ……
何だか渋い後味が口の中に残って、次第に喉が熱くなってくる。
ありゃりゃ、頬も熱くなってきた。
「舞、顔が赤くなってきたぞ」
タコみたいに真っ赤な父に言われたくないと思ったけど、私は自分の頬を両手で押さえた。
しかもこんなときにトイレに行きたくなってしまった。
ちょうど姉はお色直しで中座しているときだったので、この隙に! と急いでトイレに向かった。
「ねぇ、キミ、新婦の妹さんだよね? いくつ?」
少しふらふらとしながらトイレを出ると、いきなり見知らぬ男性に話し掛けられた。新郎の友人席にいたかもしれないな、と思うが自信はない。
「そうです。16ですけど」
「え? 高校生なの?」
その男性は本気で驚いたようだった。私ってそんなに老けて見えるのだろうか。
「彼氏とかいるの?」
そんなこと私に聞いてどうするんだろう? と思いながらも「いません」と答える。
「俺、こういう者なんでもしよかったら連絡ちょうだい」
そう言って名刺を渡された。
……ん? これ、どういう展開なんだろう?
さっきのワインのせいか、思考能力が鈍っているようだった。
名刺をぼんやりと眺めていると、その男性は私の耳元に顔を寄せた。
「それとも、今、抜け出しちゃう?」
……は? 何言ってるんだ!?
急速に脳味噌が回転し始めた。
「両親が待ってますので」
そう言ってその男性を振り切ろうとすると、意外にもしつこく、腕をつかまれた。
「待ってよ。もうちょっと話したいな」
話なんかない! と思い、少し大きな声で「離して!」と言ってみた。
「舞?」
そこに従兄が現れた。ナイスタイミング!!
そして、この従兄、諒一(りょういち)兄ちゃんは大学生なんだけど、親族の中でもなかなかの美男子なのだ。
新郎の友人らしき男性は慌てて私の腕を離し、そそくさと会場へ戻って行った。
「ありがとう、諒一兄ちゃん」
「ナンパ?」
諒一兄ちゃんは私の赤くなった腕を取って擦ってくれた。
「どうだろ? でも……私だよ? こんなメガネだし」
私は自分で言っておきながら、少し寂しくなった。男性にあんなふうに声を掛けられたのは生まれて初めてかも……。
諒一兄ちゃんは笑顔で私の顔を少しつねった。
「アルコール? 『酔ってます』って顔してる」
げげ! そうなのか。
それでさっきの男性も……
「それにしても舞も大人っぽくなったね。もう高校生か……」
私は諒一兄ちゃんの言葉にますます頬が熱くなるのを感じた。こういうカッコいい人から言われると、いくら身内とはいえ何だか照れる。
「気をつけないと、男は皆、オオカミだからね」
涼しい笑顔で諒一兄ちゃんはそう言った。
「諒一兄ちゃんも?」
私は冗談半分で聞いてみる。
「当然」
ぎょっ!
今まで見たことない種類の笑顔だった。一瞬、惹き込まれそうになる。
「舞はもう少し自覚をもったほうがいいよ。例えばそのワンピース。かわいいけど、ストールか何か羽織らないと目立ちすぎる」
……え?
私は自分の格好をつま先から再確認する。
「何が目立つの?」
特に目立つところなんかないと思うんだけどな。
すると諒一兄ちゃんは少し呆れたように肩をすくめた。
「参ったね。……まぁ、そこが舞のいいところでもあるけど」
そう言って「そろそろ戻ろう」と私の背中を軽く押した。
結婚式の後も諒一兄ちゃんの言葉が気になったが、結局意味がわからなかった。
私がその言葉の本当の意味を知るのは、もう少し後のこと……。