豪遊
今思えば、
私はあの人の策略に簡単に落ちた蟻。

蟻地獄へ落ちた働き蟻。
言葉巧みに、
常々あの人の会話で耳にする言葉はどれも行き着く先は 『金』。

どこぞの人は金持ちだ…
誰の実家は金持ちだ…

あそこの家は金がある…

いつでも視点はお金、
相手が可哀想な程不美人・不美男でも、憎まれっ子なワルでも、気難しい年配だろうと仲間のいない地味な者でも何でもいいのだ。

『金』

金の香りをかぎ分けて、 親の仇・友の仇・子の仇でも構わない。

それが、あの人。

雅俊なのだ。

雅俊の外見は、
チビの小太りした男だ。 印象的なのは、
瞳だ
死んだ魚の様な眼球が正気を無くした瞳をして、全身を舐めまわす
まわりに分からない様に人を観る癖がある…。

度々お酒を飲む席で、見知らぬ人が
『なに ジッと人の顔みてるのや!』
と、もめ事になる。

でも、雅俊は何を勘違いして居るのか分からないが、自分には威厳があると勘違いして生きている。

私にとって、
こんなにも滑稽な事は無い。

雅俊は彼成りの危うい学生時代を満喫し、どうしようも無い不良だったと、うっとりしながら武勇伝を話し始める時があるが……

この私にとっては、
実に不愉快で、チャンチャラ可笑しい、○○に毛の生えた様なものだ。
雅俊には仕事上のお客さんの中には、ヤクザな方も居る。
其がまた、雅俊の成り上がりを形成して居る部分なのだろうが、
何に加えても中途半端で自分にしか興味も無く。 彼、雅俊にとっての私は只の飾り。

迫をつける為の女

只其れだけで、高根の華だと私を崇めいて居た雅俊が、私を手にした時から

自分に自信をつけてしまい女遊びを始めたのだ。
あの頃の私は、出逢いには困らなくお付き合いする相手も、何故か会社跡取りや若くしての会社経営者の方と縁があり、

迚、大切に誠実な付き合いを大抵の男性はしてくれて居ました。
其だけに、一般家庭しかも、片親しか居ない自分が相応しく無いとの想いが強くなり、別れを自分で選ぶ事が多かったのです……。

あの時も、
雅俊を含め、三人の男性に結婚前提で付き合って欲しいと、言って下さった男性達は、矢張雅俊以外は建設会社の若息子二代目と青年実業家の年下の方々でした。

そして

雅俊の手を掴んだのは
この私……

蟻は自ら穴のなかへと足を入れたのです。



……
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