なつものがたり
「は?なに言っ・・・」
言葉が終わるより前に抱きしめられる。
あったかい。
もうすぐ、空が真っ暗になる。
幸せな時間に終わりが近づいている。
そんな感じ。
太陽が海の中に落っこち出しても、
バイクが海のそばを突っ切って行く音がしても
カモメがアホみたいに鳴いても、
希鷹はずっとずっと、あたしを抱きしめていた。
「希鷹? どしたの?」
堂々と、聞く。
それだけの心構えができるには十分な時間だった。
希鷹が、離れて行く。
今まで聞こえあっていた心臓の音が遠いものになる。