なつものがたり
それまでは、ただ“噂が絶えない軽い女。”
そんな印象しかなかったのに話しかけられた声、視線、仕草、香り、すべてが愛おしく感じた。
「突然なんだけど、桜井くんてさ、どこの大学が第一志望なんやっけ?」
不意打ち、とはまさにこのことで。
クラスが同じだけだった美しい女の子が俺の彼女になるのに時間はかからなかった。
俺らはクラスで学力 1,2を争う2人で、そんな俺を勝手に敵視していた百合子とは勉強の話し、クラブの話し。
百合子の訛りの出どころ。
どんな小学生だったか。
あの大学へ行けたらなにがしたいか。
将来の夢はなにか。
今年の甲子園予選でうちの高校はどこまでいくか。
いつまで話しても話し足りないような百合子には、ずっと見ていたい、ずっと触れていたい輝きがあった。