なつものがたり
「百合子!」
チャリを飛ばし、公園に行くと噴水の近くに彼女は立っていた。
久しぶりに見るその顔は夏なんか忘れさせるほど涼しげで。
麦わら帽子と水色のワンピース、白い肌に少しだけ染めた髪の毛、猫のような目にツヤツヤの唇。
全てが懐かしく、美しく、好きだ、と感じた。
「早い、ね。来てくれへんかて思ったんやけど。
ありがとう。」
「どう した?急に。」
緊張からなのか、声が上ずってしまう。
少し、泣いたような目をした彼女。
面と向かって話すのは、2年ぶり、だ。
「きぃちゃんに、会いたいって。
めっちゃ会いたいって、思って…」
頭で考えるよりも先に身体が動く。
嘘くさいセリフだとわかっていても、あっという間に百合子を抱きしめていた。
「きぃちゃん。」
この人のためになら、俺はいくらでも傷つける。
傷付くこと前提って、なんだそれ。
暑さで、頭やられたな、俺。