なつものがたり
「好き。
やっぱり、きぃちゃんがいい。
結婚したいなってそう思えるんは…、キィちゃんだけやった。」
抱きしめられながら百合子は、そんなことを呟いた。
でも、やっぱりそのセリフはどこか “嘘くさい、” と思ってる俺がいる。
それでも、
「やり直そう、俺ら。」
口も考えるより早く動くらしい。
その言葉を放ってから、少し、ほんの少し後悔がよぎる。
頭をよぎった顔は、今、適当に付き合ってる彼女のことじゃなく…。
「きぃちゃん?」
それをわかっていたかのように、俺から離れた百合子は、俺の目をじっと見つめる。
言うな。
なにも言うな。
俺は、俺は。
百合子が、なにより好き。
それで、充分だろ?
「また、付き合いたい。好きやねん。
せやから、あの子と一緒にいるんはやめてな?」
頭をよぎった顔。
それは、果歩の笑顔。