なつものがたり



さすが、雑誌に特集されるほどのお祭りとあって人がごった返していた。







「ちゃんと、手つないどけよ。」

「うんっ」









とりあえずは人ごみを避けながら、百合子が食べたいと言ったあんず飴を買い、俺はイカ焼きを買い、座れる場所を探す。





やっと、見つけたベンチで「ふぅ」、と二人してため息をついた。




「すげぇな、人。」


「ほんま、すごいなぁ。

けど、リンゴ飴食べれるから満足やぁ。」







ニコーっと笑いながらリンゴ飴を食べる百合子を見て、頭のどこかに追いやっている 果歩の笑顔 を思い出した。











「俺、食べ物を幸せそうに食うやつって好きだな。」



嘘は、言ってない。

ただ、、。






「えー?それって喜んでええの?」





「喜べ喜べ、」



そう言って、百合子の頭をポンポン、と叩く。

なんで、出てくんだよ。








俺が今、手に持ってるイカ焼きだって。








果歩は幸せそうに、食ってた。





なにをするにも、一緒に過ごした時間が長すぎて思い出が、ふと蘇ってしまう。

親友の喪失は、ちょっとした失恋と同じってか。


隣にいる百合子の顔を盗み見ると、一生懸命にリンゴ飴にかぶりついている。







百合子、俺たち、今度こそ幸せになれんの?


心の声は届くはずもない。





「他に、なんか食いたいもんとかある?」

「んー、きぃちゃんは?」






「じゃがバタ食いたいな、」

「いいね。あたしあんま食べたことないなぁっ!!買い行こっ?」









「また、人混みだけど大丈夫か?」




と、百合子の携帯が鳴る。


「あ、電話!出てもええ?」


ああ、と頷き、



近くにいると聞き耳を立てる様で居心地が悪い。
そう思い、少し百合子のそばを離れた。






< 29 / 92 >

この作品をシェア

pagetop