なつものがたり
待ち合わせ場所にいくと、千尋からいつも話を聞かされる千晶(chiaki)という男。
その友達、という春(shun)という男がいた。
千尋が千晶と春にあたしを紹介し、
あたしはブスッと挨拶をする。
お祭りは想像以上の人混みですでにゲッソリ。
なんかもう食欲以前の問題かも。
「祭りのあと、花火しない?」
そんな話しをしている三人を少し遠目に見ながら、カップルだらけの祭りを恨めしく思う。
「はぁーあ」
「そんなため息ばっかつくなよ!
お前、祭り好きじゃないのか?」
いきなり、春がしゃべりかけてきて気が抜けた。
「なんだこの馬鹿。」
あ、やばい。ついつい心の声が漏れた。
「は!
いきなりなんだそれ!?初対面の奴にそれ毎度言ってたら、嫌われんぞ?」
「大丈夫。初めて言った。」
「え、なんだそれ。え、ほんとなんなの!」
コロコロと表情を変える春は、いじめがいがあって楽しい。
長身、細身、クールでスマートに女子を落としてそうな第一印象とは真逆の人間だった。
久しぶりに希鷹のことを頭の片隅に追いやることができそう。
ちょっとだけ、来てよかったかな。
「千尋に絶賛失恋中ってきいたけど、ま、今日はパーっと遊ぼうや。」
「それ、オブラートに包む発言だからね、ほんと馬鹿」
「あ!悪い!
てか果歩と話してると男と話してるみてぇ。見かけと違って」
「その男っぽさがフラれた理由だわ。
浴衣なんか、普段着ないし。」
「あーっ!!!なんか、俺やっちゃったー!!!」
と叫ぶ春はほんと馬鹿でアホで、
いつもだったら、間違いなくウザいやつだろうけど。
今のあたしのテンションにはちょうど良かった。
千尋と千晶もこっち見て笑ってて
千尋が
「千晶くん落とすのに、苦戦してんのー!!」
と、言うのは建前っぽくて。
千晶も千尋のことを好きに見えた。
「ぎゃっっっ」
人混みでバランスを崩したあたしを、春の手が支えた。
「…ありがと!」
「おう!
この屋台抜けるまで、嫌かもしんねーけど手ぇ繋いでて。」
「は?!ちょ!!」
正直、希鷹以外と手をつなぐのは嫌だったけど、春の手のおかげであたしは道をどんどんと進むことができた。
「なんか、食う?
境内に出ちゃったら屋台ねぇし。」
「じゃがバターだけは外せない!」
「はー?!もう通り過ぎたわっ。戻るっ?」
「もちろん!」
なんだかんだ、春は優しくて、再びあたしの手を取りじゃがバターの屋台を目指して進み出した。